皮膚が赤くただれた状態を指して“かぶれ”と言い、皮膚科学では接触皮膚炎いう診断が与えられます。しかし、実はこのかぶれには2種類あることが知られています。
①一次刺激性接触皮膚炎(irritant contact dermatitis, ICD):
・原因:外傷・熱傷や化学薬品など
・特徴:皮膚の組織障害そのものによる“かぶれ”
②アレルギー性接触皮膚炎(allergic contact dermatitis, ACD):
・原因:ウルシなどによるアレルギー反応
・特徴:アレルギー性の“かぶれ”
これらの“かぶれ”は皮膚の炎症なので、原因さえ同定できれば、強力な抗炎症剤であるステロイドを外用すると治癒してしまいます。
一方で、これらの“かぶれ”のメカニズムは大きく異なります。
①のICDは、反応に特定の物質を必要としない、自然免疫 innate immunityによる反応であるのに対して、②は特定の対象が存在する、獲得免疫 adaptive immunityによる反応、つまり“二度なし現象”を軸とするものです。
■カサカサ肌は怒りっぽい皮膚?
古くから行われているアレルゲンを皮膚に貼り付けて数日後の皮膚の反応をみる貼付試験(パッチテスト)は、主に②を評価するものですが、慢性の湿疹つまりアトピー性皮膚炎を持つ人とそうでない人で反応性が大きく異なることは以前から知られていました1)。2006年、皮膚科学に大きな衝撃を与える発見がなされました。
以前より“カサカサ肌”として知られていた尋常性魚鱗癬という病気が、実は生まれつきにフィラグリンという保湿物質を産生出来ないことに由来し、アトピー性皮膚炎の発症要因の一つであることが明らかにされました2)。さらに、最近の動物モデルや患者サンプルの解析の結果、フィラグリンを欠損人達は、皮膚において、主に自然免疫由来の反応を活性化する“デンジャーシグナル”を産生しやすいことが明らかにされました2)。ごく分かりやすくいうと、保湿物質が足りないために、皮膚が“怒りっぽい”わけです。
先に、“デンジャーシグナル”は、自己/非自己の壁を打ち破るきっかけになるという説明をしましたが、皮膚が不機嫌で怒りっぽければ、反応しなくても良い、無害な物質や自己の成分にも反応してしまうようになるわけです。これが、アトピー性皮膚炎の患者が多くの物質に対する抗体を持つことがある理由の一つです。
近年、自然免疫が活性化しやすく、皮膚症状のみならず、腸管や関節などにも炎症を来すような自己炎症性症候群4)という症候群の原因が明らかにされて来ていますが、私は、フィラグリン欠損も広い意味での自己炎症性疾患に入るのではないかとも考えています。
■赤ちゃんの皮膚は怒りっぽい?
さて、もう一つとても重要な事実があります。慢性的な“かぶれ”であるアトピー性皮膚炎は、そのほとんどが乳幼児に生じる5)という事実です。この理由はいたってシンプルです。それは以前も触れた通り、乳幼児の皮膚はpHが弱酸性よりも高めであり、かぶれやすい6)からです。また、皮膚にはランゲルハンス細胞(LC)という、“かぶれ”を制御する、ゲートキーパーのような免疫ネットワークを構成する細胞が存在しますが、生まれて一週以内のマウスでは、このネットワークが未完成である6)ことも知られています。つまり赤ちゃんの皮膚は発展途上であり、成熟した成人の皮膚と比較して、解剖・免疫学的に大きく異なるというれっきとした根拠があるわけです。
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天気が寒くなって乾燥したら年齢を問わず、皮膚バリア機能にとっては過酷な季節です。老若問わず、肌が痒いからといって掻いていると皮膚を“怒りっぽく“させてしまいます。日頃のスキンケアと、早めの皮膚科受診をお忘れなく。
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この先生が監修しました。
Michael Lee(マイケル·リー)
若々しく力強い生き方の専門家
米国Duke大学卒業
大学病院で医師として様々なライフスタイルの患者を治療
Johnson & JohnsonでPMとして医薬品開発に参加
レイコップ株式会社で代表開発者としてQuality of Lifeに関連した製品を開発_____________________________________________________________